大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎地方裁判所佐世保支部 昭和53年(ワ)43号 判決 1980年1月23日

原告

浦邦雄

被告

伊藤忠オート株式会社

ほか一名

主文

1  被告田中昭二郎は原告に対し金二、七三四万三、四四二円およびこれに対する昭和五〇年四月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告伊藤忠オート株式会社に対する請求および被告田中昭二郎に対するその余の請求をいずれも棄却する。

3  訟訴費用は、原告と被告伊藤忠オート株式会社との間に生じたものは全部原告の負担、原告と被告田中昭二郎との間に生じたものは、これを一〇分し、その一を原告の負担、その余を同被告の負担とする。

4  この判決の1項は仮に執行することができる。

事実

一  当事者の申立

1  原告

「被告らは各自原告に対し金三〇〇〇万円およびこれに対する昭和五〇年四月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行宣言を求める。

2  被告ら

原告の請求棄却、訴訟費用原告負担との判決を求める。

二  当事者の主張

(請求原因)

1  交通事故の発生

原告は次の交通事故(以下本件事故という)により次の傷害を負つた。

(1) 日時 昭和五〇年四月二日午後八時三〇分ころ

(2) 場所 大阪府高石市羽衣四丁目三番一一号先路上

(3) 態様 道路左側を歩行中の原告に、被告田中運転の被告会社保有の乗用自動車が後から衝突して、そのまま逃走した。

(4) 傷害 頭部外傷Ⅱ型、左側頭骨々折、骨盤骨折等。(1)昭和五〇年四月二日から同年七月一〇日まで一〇〇日間久崎病院(大阪府)に入院、(2)同年七月二五日から同年九月一二日まで佐世保中央病院(佐世保市)に通院(実治療日数七日)、(3)同年九月二〇日から翌五一年五月一〇日まで二三四日間桜田病院(佐世保市)に入院し、現在も治療継続中。

(5) 後遺症 昭和五一年五月一〇日現在、頭部外傷に伴う人格変化、知能障害等の著しい精神障害あり、就労が全くできないだけでなく、円満な社会生活を送ることも不可能。

2  被告らの帰責事由

(1) 被告田中は、自動車運転者として、進路前方の安全確認義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任がある。

(2) 被告会社は、本件自動車の保有者であり、未登録の新車に臨時運行の許可を得てこれを被告田中に貸与して運転させていたものである。よつて被告は、(1)運行供用者として自賠法三条により、(2)被告会社セールスマンによる臨時運行許可証の違法な貸与行為により右車の運行を可能ならしめ、本件事故を惹起させたものであるから民法七〇九条または同法七一五条により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(1) 治療費 四二一、八〇七円

久崎病院 一五五、九七〇円

佐世保中央病院 一六、一五五円

桜田病院 二四九、六八二円

(2) 入院雑費 一六二、〇〇〇円

入院日数三二四日、一日当り五〇〇円の割合による雑費を必要とした。

(3) 付添費 二〇〇、〇〇〇円

要付添日数一〇〇日、一日当り二、〇〇〇円の割合による付添費を要した。

(4) 休業損害 二、五三〇、八五八円

休業日数三七四日(昭和五〇年四月二日から昭和五一年四月三〇日まで)、月収二〇三、〇〇〇円を三〇で除したものを日収として計算した。

(5) 逸失利益 四二、九四四、二四四円

当時、原告は鉄工所の労務者として勤務し、月収二〇三、〇〇〇円を得ていたが就労不能となつた。就労可能年数は三八歳から二九年間で、その間の逸失利益をホフマン方式(係数一七・六二九)により中間利息を控除した。

(6) 慰謝料 九、四五三、〇〇〇円

傷害分 一、六一三、〇〇〇円

後遺症分 七、八四〇、〇〇〇円

(7) てん補 七、八四〇、〇〇〇円

自賠責保険より後遺症分として

4  以上により差引損害額四七、八七一、九〇九円となるが、とりあえず被告ら各自に対し内金三〇〇〇万円とこれに対する事故の日の翌日である昭和五〇年四月三日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する被告らの答弁)

1  被告会社

請求原因1項中、本件自動車が被告会社の保有であるとの点は否認、その余は不知。同2項中(1)項は不知、(2)項は争う。同3項は不知。

2  被告田中

請求原因1項の事実は認める(但し、原告が歩行中であつたこと、被告が逃走したことは除く)。同2項は争う。同3項は不知(但し、逸失利益の点は否認)。

(被告らの主張)

1  被告会社

(1) 本件自動車は、被告会社が昭和五〇年三月六日被告田中の注文により、同人との間に同月二五日所有権留保付割賦販売契約を締結し、翌二六日同人に納車したものである。

従つて、被告会社は、被告田中に右自動車を引渡し、その使用を同人に委ね、その運行についてはなんら指揮監督等の支配権を有せず、ただ売買代金債権確保のためにのみ所有権を留保しているにすぎないのであるから、右自動車の保有者ではなく、運行供用者とはならない。

(2) ただ、当時は、右自動車は未登録であり、被告会社名義の臨時運行許可(いわゆる仮ナンバー)を受けて運行していたものであるが、これは、本来右自動車を実際に運行する被告田中が申請すべきものであるところ、顧客たる同被告が多忙等の理由で、同被告に代つて被告会社名義で申請してもらいたいとの要請により、被告会社名義で臨時運行許可手続をしたものにすぎないのであつて、被告会社が必要とする運行のために取得した許可証を被告田中に貸与したものではない。このように右許可手続が形式上被告会社名義でなされたことをもつて、被告会社が右自動車の保有者であるとか、運行供用者ということはできない。

(3) また、自動車事故は純粋な事実行為たる車の運転に関する行為であるから、具体的な車の運行について、被告会社またはその被用車が全くかかわつていない本件事故について、被告会社が不法行為責任を問われる筋合いは全くない。

2  被告田中

(1) 本件事故現場は、車の通行量の極めて多い幹線道路であり、道路両側にガードレールが設置されている場所であるところ、原告は酩酊のうえ、反対車線からガードレールをまたいで横断しようとし、しかも反対車線で車両の走行に驚いたのか、本件事故車線へふつてわいたように横断してきたものであり、被告田中は原告の背中を瞬間的に発見し、急ブレーキをかけたが間に合わなかつたものである。よつて、被告田中に運転上の過失はなく、本件車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから、同被告は免責さるべきである。

(2) 仮に無過失でないとしても、次のような原告の過失は損害賠償額算定にあたつて斟酌さるべきである。すなわち、本件事故現場は前記のとおり幹線道路であり、横断禁止場所となつていて歩車道の境にガードレールが設置されている場所であるところ、原告は、右ガードレールを乗越えて横断しようとしたものであり、しかも、夜間、酩酊のうえ、被告車の直前を急に横断しようとしたものである。以上の事情からすれば、仮に被告田中の速度違反の点を考慮に入れてもなお本件損害額から八〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。

(3) 被告田中は次のとおり久崎病院における治療費として一一五万三、一六四円を支払つている。

(被告の主張に対する原告の答弁)

被告会社の主張はいずれも争う。被告田中の主張(3)の事実は認めるが、原告主張の久崎病院の治療費はそれ以外のものである。

三 証拠関係〔略〕

理由

一  本件事故の発生について(但し、原告が歩行中であつたこと、被告が逃走した点を除き、原告と被告田中との間に争いがない)

成立に争いのない甲第一、第三ないし第八号証、第九、第一〇、第一三号証の各一、二、三、第一四ないし第二〇、第二三ないし第二九、第三七、第三八号証、丙第一号証の一ないし四、証人浦信夫、同吉田茂の各証言、被告本人田中昭二郎尋問の結果を綜合すれば次の事実が認められ、被告田中本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲の他の証拠に照らして措信できず、他に右認定を左右できる証拠はない。

1  被告田中は、原告主張の日時場所において、本件普通乗用自動車を運転して、道路標識により最高速度を時速四〇キロメートルと指定されているのに、時速約七〇キロメートルの高速度で運転し、前方の信号機の表示に注意を奪われて進路前方の安全を十分に確認しないまゝ進行した過失により、折から進路前方を右から左に向け歩行横断中の原告(当時三七年)に気づかず、同人に約二九・八メートルに接近してはじめて気付き、あわてて急制動の措置をとるとともにハンドルを左に切つたが間に合わず、自車右前部を同人に激突、転倒させた。

2  原告は右事故により、頭部外傷Ⅲ型、脳震盪症、左側頭骨々折兼挫創、下顎部挫創、顔面擦過傷、両側手背部擦過傷、骨盤骨折、の傷害を受け、そのため、次のとおりの治療を要した。

(1)  昭和五〇年四月二日から同年七月一〇日まで一〇〇日間久崎病院に入院

(2)  同年七月二五日から同九月一二日まで佐世保中央病院に通院(実治療日数七日)(但、病名は「頭部外傷後遺症」で、頭痛と逆行性健忘が残存する)

(3)  同年九月二〇日から昭和五一年五月一〇日まで二三四日間桜田病院に入院(但し病名は「頭部外傷後精神障害」で発動性の減退、情動の障害、知能低下、人格低格化ありとされる)

(4)  そのほか労災病院、長崎大学医学部精神科、同脳外科を受診している。

3  後遺障害として、発動性の減退、人格の低格化変化、知能障害(脳研式知能テストで一一才程度と判定)、思慮判断の障害等があり、そのため円滑な社会生活、労務従事は困難である。後遺障害等級三級三号と判定されている。

二  責任原因について。

1  被告田中は本件自動車を運転して前記認定の過失により本件事故を惹起したものであるから、同被告は民法七〇九条により右事故によつて原告の受けた損害を賠償すべきである。

2  原告は被告会社が本件自動車の運行供用者であると主張するので、次に判断する。

成立に争いのない甲第四二号証の一、三、原本の存在成立ともに争いのない甲第四二号証の二、証人小川四郎の証言によつて成立の認められる乙第一号証、第二、第三、第四号証の各一、二、第五、第六号証、証人寺沢幸男、同小川四郎の各証言、被告田中昭二郎本人尋問の結果によると次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1)  被告会社は、昭和五〇年三月六日被告田中から注文を受け同月二五日に同人との間に本件自動車に関する所有権留保付割賦販売契約を締結し、同月二六日同被告に右車を引き渡した。

(2)  ところが、本件自動車は道路運送車両法に規定された自動車の登録を受けていない新車であつたため、そのまゝでは運行の用に供することはできなかつた(同法四条)。そして、当時右車は新型車としての型式認定は運輸省で済んでいたが、その認定通知が陸運局へなされていなかつたため、その登録手続が遅れていた。しかし、被告会社が被告田中から受取つた下取車はすでに他に売却してしまつていたこともあつて、被告田中から、早く本件車を使用できるようにしてほしいとの要求があつたため、被告会社は同月二六日守口市長から同会社名義で道路運送車両法三四条による臨時運行の許可を得て、右運行許可証を被告田中に交付した。被告会社が自己の会社名義で右許可申請をしたのは、被告田中が遠方に住んでいて車のある守口市に来て申請手続することが不便なこと、被告会社は自動車販売会社であることから許可が容易に得られることなどの理由によるものである。しかし、その許可条件は、運行の目的は販売のための回送、運行の経路は守口―和歌山―名古屋―東京―守口となつており、右許可は、許可を受けた者が、右目的、経路に従つて運行する場合にのみ効力があり、右許可証によつて名義人以外の者が運行することはもちろん、右運行の目的、経路に違反して運行することも許されていない。

(3)  また、右許可の有効期間は五日をこえて与えられない(同法三五条)ため、被告会社は、当初同月三一日までの許可を得、右期限が切れた後、再度前記四月四日までの許可を得て、いずれもその許可証を被告田中に交付していたもので、本件事故当時、被告田中は右の二度目の臨時運行許可証によつて本件自動車を運行していたものである。

(4)  なお、右車の自動車損害賠償責任保険は被告田中名義で契約されており、本件臨時運行許可申請の際にも同被告名義の同保険契約入金証(乙第五号証)が添付されていた。

以上認定の事実によつて判断するに、まず、被告会社は本件自動車を被告田中に対し所有権留保付割賦販売契約によつて売り渡し、いまだその所有権を自己に留保していた点について、一般に右の如く所有権留保付割賦販売契約によつて自動車を売り渡した者は、特段の事情のないかぎり、右販売代金債権確保のためにだけ所有権を留保するにすぎないものとみるべきであるから、このことから直ちに自動車損害賠償保障法三条の運行供用者にあたると解することはできない(最高裁昭和四六年一月二六日判決、最高裁民事判例集二五巻一号一二六頁参照)。そして被告会社が自己の名義で臨時運行の許可を受け、その許可証を被告田中に交付しているが、前記認定のとおり右許可は専ら被告田中が本件自動車を運行するために取得したものであり、右許可証はその名義人以外の者が使用することは許されないものであるが、被告会社は当初からこれによつて右車を運行するつもりは全くなかつたのであつて、右車の運行は専ら被告田中に委ねられていたものというべきである。従つて、被告会社は右車の運行を支配したり、その運行による利益を受ける関係にはなかつたというほかはない。また他に被告会社が本件自動車の運行供用者であることを認めるに足る証拠はない。よつて原告の右主張は理由がない。

3  次に、原告は、被告会社の従業員が違法に臨時運行許可証を被告田中に貸与したため、同被告がこれによつて本件自動車を運行中に本件事故を惹起したのであるから、被告会社は民法七〇九条または七一五条による損害賠償責任があると主張する。そして、右臨時運行許可証の第三者への貸与行為は法律によつて許されないものではあるが、右の違法な貸与行為は被告田中をして本件自動車の運行を事実上可能ならしめたというにすぎないのであつて、そのことから直ちに本件事故との間に相当因果関係があると認めることはできず、他に右相当因果関係を認めるに足る証拠はない。よつて原告の右主張も理由がない。

4  以上のとおり、被告会社は本件事故に対する帰責事由が認められないから、原告の被告会社に対する本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないというほかはない。

三  損害額について(原告と被告田中との関係で)

1  治療費について

成立に争いのない甲第三〇ないし第三六号証によれば、原告は合計一三〇万九、一三四円の治療費を要したことを認めることができ右認定に反する証拠はない。

2  入院雑費について

前認定のとおり原告は本件事故のため合計三三四日間入院治療を受けており、前認定の傷害および後遺症の部位程度等を考慮すれば、経験則により少くとも一日あたり五〇〇円程度の雑費を必要としたものと認めるのが相当であり、その総額は一六万七、〇〇〇円となる。

3  付添費について

成立に争いのない甲第二三ないし第二七号証、および証人浦信夫の証言によれば、原告が久崎病院に入院していた一〇〇日間は付添を要する状態であり、前認定の傷害の部位程度等の事情を考慮すれば、少くとも一日当り二〇〇〇円の割合による付添費用を要したものと認めるのが相当であり、その総額は二〇万円となる。

4  逸失利益(休業損害を含む)について

証人浦信夫の証言およびこれによつて成立の認められる甲第三九号証によれば、原告は、本件事故当時健康な三七歳の男子であり、川崎鉄工所に熔接工として勤務し、月収平均二〇万三、〇〇〇円を得ていたことが認められ、右認定を左右するに足る的確な証拠はない。そして原告は、前記認定のとおり本件事故による傷害および後遺症のため、事故の日の翌日以後終身労務に服することができなくなつたものであり、経験則上、原告は本件事故がなければ少くとも六七歳までの三〇年間労務に従事し、同程度の収入を得ることができたものと認めるのが相当である。そこで、その間に得べかりし利益をホフマン方式により年五分の中間利息を控除して事故当時の現価を算出すると四、三九一万八、六四四円となる(ホフマン係数一八・〇二九による)。

5  過失相殺について

前記一の1項に認定した事実に、成立に争いのない甲第一〇、第一三号証の各一、二、三、第一八ないし第二〇号証、丙第一号証の一ないし四、証人吉田茂の証言、被告田中昭二郎本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。

(1)  本件事故現場は、市街地の国道で、車道の幅員一一・〇五メートルの直線、平坦な舗装道路で見通しはよく、夜間は付近に照明灯がなく暗い場所であり、両側とも歩道と車道との間にはガードレールが設置され、道路標識により歩行者横断禁止場所に指定されている。

(2)  被告田中が本件自動車を前記のとおり時速約七〇キロメートルの速度で本件事故現場に差しかゝつたが、当時は車の交通量は少く、先行車は七〇ないし一〇〇メートル前方を走つており、ほとんど独走状態で前方の見通しは極めて良好であつたが、前方の注視を怠つたため、道路を右から左へ歩いて横断しようとする原告に気付かず、約二九・八メートルに接近して初めて気付いた時には原告はすでに中央線をちようど越えたあたりまできており、あわててハンドルを左に切つて急制動の措置をとつたが、前記高速度のためにこれを避けることができず、原告が中央線と車道の左側端とのほぼ中間あたりまできたところで自車右前部を衝突させた。

(3)  原告は、同所が横断禁止場所と指定され、車道と歩道との間にはガードレールが設置されているにもかゝわらず(もつともガードレールは脇道や両側の人家への出入口などのため、所々で途切れており、原告はその途切れたところから車道に入つたのか、ガードレールをまたいで入つたのかは不明である)歩いて右道路を横断しようとした点に落度が認められる。また原告は当時ポケツトにウイスキーびんを約二割くらい飲んだ状態で入れていたことが認められるが、当時酒に酔つていたかどうか、酔つていたとすればどの程度であつたかなどは明らかではない。

以上の事実が認められ、右認定を左右しうる的確な証拠はない。以上認定したところによれば、原告にも本件事故について過失が認められ、本件事故に対して寄与した過失割合は、(1)原告側の事情として、夜間、横断禁止場所と指定され、ガードレールの設置された(但しこれを乗り越えて車道に入つたかどうかは不明)国道を横断しようとしたこと、(2)被告田中側の事情としては、同所が市街地で当時は交通量もそれほど多くなく(そのような場合には時折禁止に反して横断しようとする者のあることが予想される)、夜間、制限速度を大幅に越えて時速約七〇キロメートルの高速度で進行し、しかも前方注視を怠つていたこと、など諸般の事情を考慮すれば、原告三五パーセント、被告田中六五パーセントと認めるのが相当である。

そこで、前記1ないし4項で認定した損害額合計四五五九万四、七七八円から原告の過失の寄与分三五パーセントを控除すれば二、九六三万六、六〇六円(円未満四捨五入)となる。

6  慰謝料について

原告は、本件事故により前認定の傷害を受け、後遺症が残り、精神的損害を受けたことは明らかであり、これに対する慰謝料は、前記認定の傷害の部位、程度、後遺症の態様、程度および本件事故に寄与した原告の過失の程度など諸般の事情を考慮すれば、六七〇万円と認めるのが相当である。

7  損害のてん補について

(1)  被告田中が治療費として一一五万三一六四円を久崎病院に支払つたことについては当事者間に争いがない。

(2)  自賠責保険から七八四万円が原告の損害のてん補として支払われたことについて被告田中は明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

8  損害賠償額について

以上により、被告田中が原告に対して賠償すべき損害額は5項と6項の合計金額から7項の金額を差引いた二、七三四万三、四四二円となる。

四  以上により、原告の被告会社に対する請求は理由がないからこれを棄却し、原告の被告田中に対する請求は前記損害額二、七三四万三、四四二円とこれに対する事故の日の翌日である昭和五〇年四月三日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 綱脇和久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例